『金融庁 金融機関に引当金不足の解消を促す』

5月も中盤を迎え、駆込み需要の反動も一段落して、紙面では人件費の話題が増えてきている。大企業の相次ぐベースアップに中小企業は追い付いていけず、どの分野でも人材不足による人件費上昇、売り手市場になってきた。これまで人を大切にしてきたかが経営者に問われている。

『 金融庁 金融機関に引当金不足の解消を促す 』

2014年5月9日付ニッキンに『金融庁 抜本的な再生支援に備え 引当金不足の解消を促す』との記事が載った。

金融庁は、中小企業再生支援協議会が推奨する「暫定リスケジュール」の増加傾向を踏まえ、地域金融機関に対して返済猶予中に当該企業の貸倒引当金を積み増しするよう促すとの内容だ。

13年度の中小企業再生支援協議会での再生計画策定件数は、前年度比65%増の2500件強。ただ、そのうち半数弱を「暫定リスケジュール」が占めている状態。

暫定リスケジュールとは円滑化施行後にリスケを繰り返してきた中小企業に最後の返済猶予である事を告げた上で、抜本的な再生計画に移行する為の経営体力を養う時間的猶予を3年程度与える措置の事を指す。

この抜本的な再生計画は債権放棄やDDS(資本性劣後ローン)などを伴うものとなる可能性が高い為、計画策定においては金融機関の協力が不可欠となるが、金融機関側からすれば過剰債務の削減要請に応じなければならず、損失を確定する必要が出てくる。

その際、問題となるのが金融機関毎での体力格差や債権者区分、引当率に差がある事であり、体力が無く、引当金を積んでいない一部の金融機関は損失を確定させる再生計画に難色を示し計画案自体がとん挫する事例も出てきてしまう。

その為、金融庁は暫定リスケジュール期間中の3年間において金融機関側に引当金不足を解消するように個別金融機関へ求め行く考えを示している。

一見、この報道を見る限りは、債権放棄を実現しやすい環境が整い再生可能性が高い中小企業にとっては有利子負債の圧縮は実質債務超過の解消や債務償還年数を引下げる事になる為、朗報にも聞こえるが、一概には言えない。

金融機関が引当金の不足分を積んでいく事は、自身の収益性を悪化させる事になり、自己査定においてこれまで以上に厳しい見方をしなければならなくなる。

その為、金融機関としては引当金をほとんど積む必要のない、債権者区分優良先企業への融資量を増やすという行動に出る。
預金総量と預貸率に大きな変化をさせない金融機関においては裏を返せば、融資総量が変わらない為、債権者区分下位の企業から上位の企業へ融資が流れていくという状況が起こる可能性がある。

この行為が結果として貸し渋りや貸し剥がしといった事象となって表れていく。ましてや中小企業において融資の大半を占める信用保証協会付融資の100%保証枠が無くなってくれば、プロパー融資の割合が増える為、これまで貸せていた企業においても貸せなくなるというのは当然出てくるのである。

また優良顧客のシェアが低い金融機関は引当金を積む割合が高くなり、当然収益性が下がる事で単独での存続が困難になってくるケースもある。今回の動きが政府と金融庁が主導している金融機関再編の流れの中の1つである事は言うまでもない。

この金融機関再編の流れの中で吸収される側の金融機関がメイン行になっている場合は、今後の財務戦略上のリスクを考え、銀行とのつきあい方を再考される事をお勧めします。

奥田 雄二

 


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