『 経営戦略として組織再編:株式集約の重要性 』 -2024年10月02日号

前回のメールマガジンでは、ホールディングスの設立についてお話しました。

今回は、組織再編における重要なポイントである「株式集約」に焦点を当ててみたいと思います。特に、(1)株式分散のリスク、(2)各種決議に必要な持分割合、の観点から、株式集約の重要性を解説いたします。

【株式分散のリスク】

先日、とある事業者様の決算書類を拝見する機会がありました。この事業者様は相続税対策ということもあってなのか、株式を親族に広く分散させておりました。複数のお子様方やお孫様にあたる方々が株主となっておりました。現在の代表者様は、株式を分散させるに至った当時のことはご存知ないので、特段、意識されたことはなかったようです。

以前は、株主が親族で複数いる決算書類を、結構、拝見したことがあります。ただ最近では、代表者お一人が100%所有する形が多くなってきた印象がありました。久々に、ここまで分散されている内容を拝見しました。

株式が分散している状態は、相続税が抑えられる、といった考えの下、創業時からや株価が下がったタイミングで分散させてしまうことが見受けられます。確かに、例えば創業者の相続税の観点からすれば、そうした効果はあるのでしょうが、経営を引き継がれた方からすると、自分の思うように会社運営ができないことがあり得ます。

また、多様な株主の意見を反映できる、といったメリットを主張される場合もあるかと思います。しかしながら、中小企業経営の現場の観点からは、以下のようなリスクが存在します。

(イ)意思決定の遅延
株主の意見が分かれやすくなり、重要な経営判断に時間がかかる可能性があります。競争の激しい市場では、このスピードの遅さが致命的になることも考えられます。

(ロ)敵対的買収のリスク
株式が分散していると、敵対的買収を仕掛けやすくなります。一部の株主から株式を買い集められ、経営権を脅かされる可能性が高まります。

(ハ)株主間の利益相反
様々な立場の株主が存在することで、短期的利益を求める株主と長期的成長を重視する株主の間で対立が生じやすくなります。

(ニ)情報管理の難しさ
株主数が多いほど、重要な企業情報の管理が難しくなります。情報漏洩のリスクも高まります。

【様々な決議に必要な持分割合】

株式会社の意思決定において、議決権の割合は極めて重要です。主な決議事項と必要な持分割合は、原則、次のようになります。

尚、決議の前提としまして、定足数要件と多数決要件という要件定義があります。
定足数というのは、株主総会が成立するに足りる最低限度の株式または株主の割合のことを言い、これが足りていないと成立しません。
多数決要件というのは、ご存知の通り、賛否を決する株式の割合のことになります。

(ホ) 普通決議 (会社法309条1項)

  • 定足数要件:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席
  • 多数決要件:出席株主の議決権の過半数
  • 主な決議事項: a) 取締役・監査役の選任・解任 b) 剰余金の配当 c) 計算書類の承認 d) 取締役・監査役の報酬額の決定 e) 会計監査人の選任

(ヘ) 特別決議 (会社法309条2項)

  • 定足数要件:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席
  • 多数決要件:出席株主の議決権の3分の2以上
  • 主な決議事項: a) 定款変更 b) 合併、会社分割、株式交換、株式移転 c) 事業譲渡、事業譲受(重要な一部の譲渡・譲受を含む) d) 解散

(ト) 特殊決議(会社法309条3項)

  • 定足数要件:議決権を行使できる株主の半数以上が出席
  • 多数決要件:出席株主の議決権の3分の2以上
  • 主な決議事項: a) 譲渡制限株式の発行など

(チ) 特殊決議(会社法309条4項)

  • 定足数要件:総株主の半数以上が出席
  • 多数決要件:総株主の議決権の4分の3以上
  • 主な決議事項: a) 属人的株式の導入など

これらの割合を踏まえると、経営の安定性と機動性を確保するためには、少なくとも3分の2以上の議決権を確保することが望ましいと言えます。

【株式集約の重要性】

以上の点を踏まえると、株式集約の重要性が浮かび上がってきます。

  1. 経営の安定性確保
    主要株主が経営方針を明確に打ち出し、迅速な意思決定が可能になります。
  2. 敵対的買収への備え
    株式が集約されていれば、敵対的買収のリスクを大幅に低減できます。
  3. 長期的視点での経営
    短期的な利益にとらわれず、企業の持続的成長を目指した経営が可能になります。
  4. コーポレートガバナンスの強化
    株主構成が明確になることで、責任ある経営体制を構築しやすくなります。

株式集約は、経営の安定性確保、迅速な意思決定など、多くのメリットをもたらします。結果的に、税務上においても適格要件を満たしやすくなり、有利な形での組織再編が可能になることもあります。

経営においては、会社や事業を継続していくことが最重要になります。そのためには、現経営者は次世代の経営者のために経営環境を整えてあげることが重要です。今の自分の時代ではなく、次の時代のために経営環境を整備することが、現経営者の役割であると思います。個人的には上述の(ロ)や(へ)を意識した取り組みが必要と感じています。優先順位を付けながらにはなるかと思いますが、今の自身の役割が何なのか、改めてお考えの上、貴社の株主構成を、今一度、見直してみてはいかがでしょうか?

いつでも、貴方からのご質問等をお待ちしております。

それでは、この度の情報がご参考になれば幸いです。

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